ー「ジョルジュ・サンドの『ガブリエル』と教育の問題」『国際文化学研究』53号、2019年、神戸大学大学院国際文化学研究科紀要、pp.53-69.
ジョルジュ・サンドの数多くの作品の中で、おそらく「恋」「結婚」に次いで頻繁に取り上げられるトピックは「教育」、それも女子教育の問題であろう。本稿ではサンドの対話体小説『ガブリエル』(1839年発表)に、当時のサンドの教育観がどのように投影されているか、また彼女の晩年の作品中ではそれがどのように変化したかを考察した。具体的には、まずこの作品に関する主要な研究について述べたあと、主人公ガブリエルに施された「男性至上主義」教育について考えた。次に、「天使」あるいは「第三の性」としてのガブリエルというテーマについて、同時代のテオフィル・ゴーチエの小説『モーパン嬢』と比べながら検討した。最後に、サンドの晩年の女子教育観がいかなるものであったかを、女主人公の教育の問題が大きな位置を占める小説『マドモワゼル・メルケム』(1868年発表)を取り上げて考えた。
自分の受けたパリの修道院での上流階級の娘としての教育と、田舎の屋敷で家庭教師から受けた男並みの教育について、後年サンドは深く検討し、また男性の服を着ることからくる行動の自由とそれと分かちがたい精神の自由にも思いをはせることが多かった。また、サンドは自分の息子と娘の教育に非常に熱心で、ショパンとともにマヨルカ島に行った時も子どもたちの教育は彼女自身がおこなっていた。その後、子どもたちを寄宿学校にあずけたり、家庭教師をつける時も彼女がその教育内容をかなり詳しくチェックしていたことが書簡等からうかがえる。『ガブリエル』は執筆当時のサンドの教育というものに対する考えをかなりあからさまに示した小説であると同時に、より普遍的な女子教育、その基盤である女性の地位やジェンダー不平等についての彼女の問題意識が結実した興味深い作品であることは間違いないであろう。