「ミシュレによるジャンヌ・ダルク像ーその啓示と奇跡の取り扱いをめぐって」『近代』71号、1991年、神戸大学『近代』発行会、pp.35-48
ミシュレのジャンヌ・ダルク像、とりわけ彼女が受けた啓示と彼女にまつわる奇跡がどのように取り扱われているかを検討するため、ラルースの『19世紀 大辞典』のジャンヌに関する項目およびエルネスト・ラヴィス編『フランス史』中のジャンヌに関する記述とミシュレのそれを比較する。
ジャンヌの受けた啓示やその解釈・取り扱い方に関して、科学のがわに立って超自然的・神秘的なものを徹底的に排除しようとしながらもそれ らを完全に無視することができなかったラルース『19世紀大辞典』や、それらをほとんど問題にもしないラヴィスの『フランス史』と比べると、ミシュレの ジャンヌ像には多分に彼のロマン主義的傾向が見られる。ミシュレの『フランス史』においてジャンヌはフランス民衆精神の化身とみなされており、その民衆 (Peuple)はやがて彼の中でキリストの姿を取るようになっていく。このようにして、ミシュレもまたカトリシスムに代わる新しい宗教を追究していった のである。