スタール夫人の『デルフィーヌ』について

ー「スタール夫人の『デルフィーヌ』について」『近代』115号、2016年、神戸大学近代発行会、pp.1-17

ジェルメーヌ・ド・スタール夫人の最初の長編小説である『デルフィーヌ』には様々な女性の生き方と運命が描かれている。一見、物語中の時代(1790年代の初め)の政治・社会状況とも作品刊行の時代(1800年代初頭)ともあまり関係のない、フランス貴族階級の女性たちの生きざまのようである。だが、当時の終身執政ナポレオン・ボナパルトはこの小説を不穏当なものとみなし、作者をパリから追放した。これはなぜだろうか。

本稿では、新版を出すたびに大幅に書き換えられ、最終的にふたつのヴァージョンを残すことになったこの小説の結末部分を主に取り上げ、ふたつを比較しつつその特徴について検討する。生前のスタール夫人が最後に書き残した結末をなぜ公刊しなかったについても考える。